BBU概論

クリエーションとBBU

この章では、BBUの原因のとなる原動と、BBUの運動との関係について考察する。

負のBBUと、正のBBU

負のBBUと、正のBBU一般的にBBUは、イライラしたときに発生するといわれている。しかし一方で、考えごとに集中している場合にも発生する。前者を「負のBBU」、後者を「正のBBU」と呼ぶことにする。この二つのBBUは一見するとまったく別の行動のように見えるが、根底には「頭の中のイメージと、現実とのズレ」という共通性がある。この点について考察するために、まずは知覚・認知のモデルを使って考えてみよう。

イメージとは

イメージとは例えば「リンゴ」を見て、私たちはそれが「リンゴ」であることを理解できる。当たり前のようだが、そのために脳はとても複雑な処理を行っている。認知科学では、それは外的世界の「リンゴ」の意味のネットワークと同じものが脳の中に構築され、その二つを人間が結びつけることができるからだ、とする。

五感という五つのレセプター

私たちには、口、耳、目、鼻、皮膚という五感がある。これらの感覚器官はいわばセンサーであり、外部から情報を受け取る「レセプター(受容器)」である。リンゴを手にとったとき、リンゴの情報はこの五つのレセプターから、さまざまな状態で脳の中に取り込まれる。極端なことを言えば、五感という門を通り抜けるために、リンゴという全体像は、いったんバラバラにされてしまう。

五感という五つのレセプター

  • 味覚(口)・・・甘い
  • 聴覚(耳)・・・かじるとシャリッと音がする
  • 視覚(目)・・・赤い、丸い
  • 嗅覚(鼻)・・・フルーティー
  • 触覚(皮膚)・・・すべすべしている

そして、バラバラに入ってきたそれらの情報を脳は結び付け、脳という内的世界に「リンゴ」という情報の集まりを作りあげる。そしてさらに、外的世界の「リンゴ」と内的世界のリンゴが、同じものだというメタレベルでの確認ができたとき、人間は、リンゴをリンゴとして理解するのである。

五感という五つのレセプター

学習・・・コモンセンス(常識的)なプロセス

学習・・・コモンセンス(常識的)なプロセス人間が外的世界の情報を、レセプターから取り込み、脳の中に意味のネットワークを構築するプロセスを、一般に「学習」と呼ぶ。そのプロセスは3段階ある。

  1. 外的世界に存在し、内的世界に存在しない情報のズレが発生する。
  2. レセプターを通して脳の中に情報を取り込む
  3. 脳の中にバラバラに入ってきた情報を組み立て、内的世界と外的世界をイコールにする。

この「ズレ」を「イコール」にしていくプロセスは、一般的には「コモンセンス(常識的)な生き方」である。例えば「(1)テレビで新しい化粧品のCMを見た。(2)その化粧品を買いに行った。(3)使ってみて納得した。」などの行動は、「世間の常識についていく」という行動である。

また、生物が環境の変化に対応して自分の内的世界を調整して生きていくことを「恒常性 = ホメオスタシス」というが、これもまた「コモンセンス(常識的)な生き方」であるといえよう。

表現行為・・・コモンセンス(常識的)なプロセス

表現行為・・・コモンセンス(常識的)なプロセスさて、コモンセンスな情報編成のプロセスとまったく逆が表現行為である。例えば芸術家が、「空とぶリンゴのイメージが浮かんだので、そのオブジェを作った」という場合を考えてみよう。そのプロセスは3段階ある。

  1. 内的世界に「空とぶリンゴ」が存在し、外的世界に存在しない情報のズレが発生する。
  2. コミュニケーターを通して脳の中の情報を外に取り出す。
  3. 内的世界と外的世界をイコールになる

コミュニケーター

コミュニケーター内的イメージを外的世界に取り出すにはいろいろな方法がある。もっとも簡単なのは口を使った「言葉」である。次に簡単なのが、その言葉を手を使って書き記した「テキスト」や「」である。そして一番複雑なのは、手を使って三次元の「モノ」を作ることである。
ここで「」や「」は、内的世界のイメージを外的世界に取り出し、他者とコミュニケーションをとるための器官である。そこでこの器官を「伝達器 = コミュニケーター」と呼ぶことにする。

GAP・・・・Generating Abnormal Potential

GAP・・・・Generating Abnormal Potential

これまでのべた、学習と表現の関係をひとつにまとめると、上図のようになる。共通することは、その出発点に「内的世界」と「外的世界」のズレがあることである。このズレのエネルギーが、学習や表現行為の原動となっている。

電位差 potential difference このモデルを、電池に例えると、「電位差  potential difference」になる。プラスに帯電する物質と、マイナスに帯電する物質が向かい合って、その間に「電位差」というズレを貯蔵したものが電池である。電位差が大きい電池ほど、たくさんのエネルギーを貯めて、大きな仕事をすることができる。

それにならって、人間の持っている「内的世界」と「外的世界」のズレを「GAP (Generating Abnormal Potential = 異常な可能性の発生)」 と呼ぶことにする。これは「理想と現実のズレ」のエネルギー量のことである。

映画「ジギー・スターダスト」の中でのデビットボーイの名台詞、「イメージが世界を変える(※2)」は、理想と現実のGAP(※1)こそがすべて表現行為のエネルギーであり、その差が大きいほど、それを外在化したときに、世界を変えることができる、ということを述べたものである。GAP(※1)がないところからは、学習意欲も、表現意欲も生まれない。

イメージとは

さて「GAP(※1)」のモデルを使って、負のBBU、つまりイライラしたときに起こるBBUについて考えてみよう。負のBBUの例として、こんなシチュエーションを考えられる。

携帯電話で、明日、友人と一緒に映画を見にいくことになり、10時に駅で待ち合わせることにした。さて翌日、約束どおり駅に行ったのだが30分待っても友人がやってこない。遅れる連絡もなく、携帯もつながらない。心配しつつも、だんだん腹が立ち、イライラしてきて気がつけばビンボーゆすりをしていた。

この状況を段階的に分析してみよう。

イメージとは

  1. 携帯電話の会話を「耳(レセプター)」で聞き、「明日の朝10時に、友人と駅にあっている」というイメージを脳の中に作り上げた。
    (2)「朝10時に、駅へいく」という現実的な行動をとった。
  2. ところが、駅には友人がこない。ここで、「内的世界におけるイメージの生成」と、自身の行動によってとった「外的世界の現実化」がズレてしまい、GAP(※1)が発生した。

GAP(※1)はストレスである

GAP(※1)はストレスであるさて(3)におけるGAP(※1)は、人間に「ストレス」を感じさせる。このストレスを解消するには、

  • A 「事故にあったのかもしれない」などの友人が来ない理由を勝手にイメージし、GAP(※1)を受け入れる。

  • B 見つかるまで、友人を探しにいく、現実的な行動をとる。

といった、積極的な方法をとらなければならない。ところが新しいイメージを想像するためには、豊富なイメージ力と、それを信じ込む「思い込み」がなければならない。これは大変な脳の作業である。またBの待つことをやめて、「見つかるかもしれない」という可能性にかけて、探しにいくという行為も、肉体的にかなりの作業である。
AとB、どちらの選択も人間にとって、とても「めんどくさい」行為である。できることならやりたくない。そこで普通は、どちらの行為も選択せず、「おかしい、なんでこないんだろうか」と最初のイメージに固執し、行動を起さない。ところが脳の中にはGAP(※1)が存在する。そこでこのGAP(※1)のエネルギーが、ときどき身体に少しずつ漏れて、人間の体を微妙に振動させる。これがBBUと考えられる。

GAP(※1)はストレスである

負のBBUの簡略図 (フィッシュ図)

イメージとはこれまでBBUのモデルとして登場した図から要素をはぶいて簡略化すると、右図のようになる。

この形は、魚に似ているので「フィッシュ図」と呼ぶことにする。

正のBBU

では次に、「正のBBU」、つまりクリエーションな思考を行うときのBBUについて考えてみよう。
例えば、こんなシチュエーションが考えてみよう。

クライアントから「新装開店するスーパーのロゴを作れ」という発注がきた。どうしようか悩みまくり、気がついたらビンボーゆすりをしていた。しばらくすると「空を飛ぶリンゴ」というイメージが浮かんだ。それを絵に描き、クライアントに提出した。

このプロセスを段階的に見てみると、

正のBBU

  1. 新しいイメージを作ろうとして悩み、BBUを行う。
  2. 空飛ぶリンゴ」という内的イメージが生まれ、外的世界との間にGAP(※1)が発生する。
  3. GAP(※1)を埋めるために、手を動かして「絵」を描いた。
  4. 内的イメージが「」として外在化し、GAP(※1)がなくなった。

このプロセスをフィッシュ図にすると、下のようになる。

イメージとは

GAP(※1)とBBUの関係

それでは、「負のBBU」と、「正のBBU」のフィッシュ図を比較してみよう

GAP(※1)とBBUの関係

ご覧のようにふたつの図はとてもよく似ているが、方向性がまったく逆になっている。「」のBBUの逆のプロセスが、「」のBBUになっている。同じBBUでも、「負のBBU」はGAP(※1)を「少しでも減らす(負)」ために行っているのだが、「」のBBUは、GAP(※1)を「作り出す(正)」ために行っている。

モーターとBBU

モーターとBBUGAP(※1)は「エネルギー」であり、BBUは「運動」であるとするならば、この二つの関係は、電池と、モーター(発動機)とジェネレーター(発電機)の関係に似ている。モーターに電池を取り付けると、その電位差から電気が流れ、回転運動が起こる。同じモーターにハンドルを取り付けて回転運動をすると、電気を作る、発電機になる。

モーターとBBUこれと対応してBBU考えると、BBUはモーターであり、GAP(※1)はバッテリーである。イライラしたときに起こる負のBBU場合、GAP(※1)を「発散」させるために、BBUという運動がおきる。逆にクリエイティブな思考をするときのBBUは、新しいイメージを脳に作りというGAP(※1)を「発生」させるためにBBUを行う。

思考のジェネレーター(発電機)

負のBBU」、「正のBBU」。どちらの発生要因を考えてみても、共通するのは、「」がイメージを勝手に生成してしまう、という問題である。ほっといても脳はクリエイティブな活動をしてしまう。「わたしは面白い発想が浮かばない」という方がいるが、それであっても、「面白い発想が浮かばないという自分」を積極的にクリエーションしていることになる。

人間が新しいアイデアを生み出すとき(=アイデアプロセッシング)に身体の振動を利用する例は、BBUのほかにもある。例えば「散歩をしているといいアイデアが浮かぶ」という場合、歩行の振動を利用している。また「ペン回し」や、机を指でトントンたたくなども、指の振動を利用している。
散歩以外のこうしたアイデアプロセッシングのための振動は、一般的に「はしたない」とされている。しかしそれをうまく利用できれば、効果的なアイデアプロセッシングの潤滑油になる可能がある。特にBBUは、散歩につぐ大きな運度エネルギーである。この振動をクリエイティブ・ビートとしてとらえ、機械的にコンロールするデバイスが作れれば、それは新しい「思考のジェネレーター(発電機)」になる可能性があるだろう。

※1…GAP=Generating Abnormal Potential = 異常な可能性の発生
※2…世界的なロック歌手で最近では俳優としても活躍しているデイヴィッド・ボウイがザ・スパイダーズ・フロム・マーズと共に1973年7月3日ロンドンのハマースミス・オデオンで行なったコンサートの模様を収録したドキュメンタリー。製作・監督はドン・アラン・ペネベーカー。goo映画(http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD11067/index.html)より。